【令和2年7月10日】遺言書保管制度がはじまりました!

本記事では、自筆証書遺言を対象とした、法務局での遺言書保管制度について、くわしく説明します。


自筆証書遺言書保管制度とは

自筆証書遺言保管制度とは、自筆証書遺言(遺言者本人の自書によって作成された遺言)のさらなる利用拡大を図るために、令和2年7月10日から開始した法務局での遺言書保管サービス(制度)のことをいいます。

自筆証書遺言保管制度のメリット

50年以上もの間、国が安全に保管してくれます

本制度を利用することで、自筆証書遺言の原本は、遺言者本人が亡くなった日から50年間(遺言書のデータについては150年間!)法務局で保管されます。

これまで、自筆証書遺言では、遺言書をどこに保管するのかが悩ましい問題でした。また、せっかく書いた遺言の存在をだれも知らないがために、死亡後も発見されない、といった心配もありました。

自筆証書遺言保管制度では、自筆証書遺言は、全国312の法務局に設置された遺言書保管所において、長期に渡り安全に保管できるようになります。しかも、遺言者の死亡後に、相続人からの申出があれば、原本を保管する法務局以外の遺言書保管所でも、亡くなった方の遺言が残されているか、また残されている場合にはどのような内容の遺言なのかを、遺言書のデータを閲覧する方法によって確認することができるようになりました。

これにより、従来あった遺言の保管面や、遺言の未発見といった問題は解消されます。

保管手数料は3900円。保管後の撤回は無料でできます

長期間安全に保管してくれるのに、その遺言の保管手数料は3900円と、比較的利用しやすい価格設定となっています。

しかも、保管申請後、気が変わって遺言を作り直したいと思ったら、遺言者はいつでも保管の撤回をすることができます。撤回にかかる手数料は無料です。

長い人生の中で、自分の置かれている環境も日々変化していきます。自分の財産状況・親族の関係性が変われば、遺言の内容だって変わってくるものです。その時々に応じて、ベストな内容に書きかえたいといったニーズにも、自筆証書遺言(保管制度)は適しています。

死亡後の検認(裁判手続き)が不要に

個人的に、遺言書保管制度の一番のメリットと思うのが、この検認(裁判手続き)が不要となる点です。

遺言書の検認(けんにん)とは

遺言書の偽造・変造を防止するために、家庭裁判所で行う、相続人全員による遺言書の検証・確認手続きのこと。
事前に通知された期日に相続人が集まり、裁判官が相続人の面前で遺言書を開封し、形式・形状などを出席した相続人全員で確認します。検認後は、遺言原本に検認済証明書が合綴(がってつ。ホチキス留め)され、合綴後の遺言原本を基に、その後の相続手続きを進めることになります。

遺言書の検認は、相続人にとって時間と手間がかかる手続きである上に、もし仮に、検認の際に「遺言者本人の筆跡・押印ではない」という意見の相続人がいたような場合には、その後の相続手続きにも支障が出る可能性があります。

この点、遺言書保管制度では、保管申出時に遺言者の本人確認がなされ、また、保管も法務局でされることで偽造・変造のおそれもないことから、この遺言書の検認も不要で、そのまま相続手続きに利用することができます。

遺された相続人の手間を考えて自筆証書遺言を避けていた方にとっては、一番のメリットといえるのではないでしょうか。

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公正証書遺言との比較

次に、これまで最も利用されることの多かった公正証書遺言と比べた場合の優劣をみてみましょう。

公正証書遺言と自筆証書遺言(保管制度あり)の比較表

 比較項目公正証書自筆証書
(保管あり)
コスト
手間・時間
保管期間
未発見リスク
内容の有効性
紛争の防止
相続手続き

【比較1】コスト

利用コストの点では、自筆証書遺言の方が優れています。

公正証書遺言では、公正証書作成時に支払う手数料(おおむね5万円から10万円程度が目安です)のほか、当日は証人2名も手配する必要があり、証人へのお礼も考えなければなりません。(証人を専門職に依頼した場合の相場は1人につき1万円程度です。)

一方、自筆証書遺言では、紙とペンがあれば作成可能ですし、遺言書保管制度を利用する場合にも3,900円の保管手数料の負担だけで済みます。

そのため、とにかくコストを低く抑えたい方は、自筆証書遺言一択といえるでしょう。

【比較2】手間・時間

手間や時間といった点でも、自筆証書遺言の方が便利でしょう。

公正証書遺言では、公証人との打ち合わせや原案の確認、必要書類の収集、作成日のスケジュール調整や証人2名の手配など、公正証書の作成までに、様々な調整をしなければなりません。

一方、自筆証書遺言では、全文自書という手間はあるものの、自分ひとりで作成することができる方式のため、たとえば、全財産を一人に譲る、といった簡単な内容であれば、すぐにでも作ることができます。

遺言作成に時間をかけられない方や、シンプルな内容の遺言であれば、自筆証書遺言がおすすめです。

【比較3】保管期間

遺言書の保管期間については、どちらの方式でも問題ないでしょう。

公正証書遺言の原本の保管期間は、公証役場ごと異なっており、遺言者が120歳程度の年齢になるまで保管する公証役場もあれば、原本破棄はしないとする公証役場もあるようです。ちなみに、以前公証人の先生からお聞きした内容によりますと、山梨県甲府市にある甲府公証役場では、遺言者が120歳になるまで保管するとのことでした。現在の世界最高齢が118歳(福岡の女性)ですので、120歳まで保管してくれるのであれば、亡くなる前に破棄される心配はないと考えていいでしょう。

自筆証書遺言保管制度の原本保管期間は、亡くなった日から50年間とされており、また、生死が明らかでない場合には、出生日から120年経過した日が死亡した日とされることから、自筆証書遺言保管制度でも、亡くなる前に破棄される心配はなさそうです。

【比較4】未発見リスク

せっかく作った遺言書が相続人に見つからないといったリスクについては、保管機関からの通知の制度が設けられた自筆証書証書遺言保管制度の方が優れています。

相続人からの遺言の調査の可否

公正証書遺言も、自筆証書遺言保管制度も、相続人からの依頼があれば、全国の公証役場または遺言書保管所で、亡くなった方が遺言を作っていたかどうかを検索できます。また、もし作っていたのであれば、相続人は、その遺言の内容を証明する書類(=相続手続きで必要となる書類)の交付を受けることも可能です。

保管機関から相続人等に通知する制度の有無

では、相続人が遺言の調査をしなかった場合はどうでしょうか。

公正証書遺言では、現状、遺言者の死亡後にその相続人等に対して、遺言書が存在する旨を通知するような制度は存在していません。

一方、自筆証書遺言保管制度では、遺言書保管所から相続人等に、保管されている遺言書が存在する旨を通知してくれる2つの制度(「死亡時の通知」と「関係遺言書保管通知」)があります。
このうち、「死亡時の通知」では、遺言者が死亡した旨が役場に届けられることで、役場から遺言書保管官に遺言者死亡の情報が提供され、その情報を受けた遺言書保管官は、あらかじめ通知対象者として指定された方1名に、遺言書が保管されている旨を通知するものです。この「死亡時の通知」を利用することで、相続人からの働きかけがなくても、遺言書を作成していた事実を知らせることが可能となり、せっかく作った遺言書が活用されないといった問題も解消できます。

「死亡時の通知」の運用開始は令和3年度以降

法務省ウェブサイトによると、自筆証書遺言保管制度における死亡時の通知は、「令和3年度以降頃から本格的に運用を開始」とされており、本記事執筆時点(令和3年3月9日)では、まだ運用が開始されていませんので、ご注意ください。
とはいえ、運用開始前においても、遺言書の保管申請の際に、死亡時の通知を希望する旨の受付自体は可能です。受付さえしておけば、運用開始後に遺言者が死亡した場合に、指定した通知対象者に対し死亡時の通知がされる取扱いとなります。

【比較5】内容の有効性

遺言の内容の有効性については、公正証書遺言の方が優れています

公正証書遺言では、遺言者の意思を公証人が法的に有効な文書として作成してくれます。また、公証人は公正証書の作成時に、本人確認と意思確認(遺言者が内容を理解した上で意思表示をしているかの確認)も行うため、遺言者の死亡後に、公正証書遺言の内容の有効性が問題になることはほとんどありません。

一方、自筆証書遺言の作成は、遺言者本人が行うため、その内容の有効性については低いと言わざるをえないでしょう。遺言書保管制度を利用することで、遺言書保管官が遺言の様式のチェックや本人確認はするものの、それをもって、遺言の有効性を証明することにはならない点に注意が必要です。

公正証書なら公証人と相談して遺言を作れるの?

公正証書遺言の作成であれば、公証人の先生に相談しながら、遺言を作成することもできます。日本公証人連合会にも、公証事務の内容として、以下の記載があります。

遺言者が遺言をする際には、さてどんな内容の遺言にしようかと思い悩むことも少なくないと思いますが、そんなときも、公証人が親身になって相談を受けながら、必要な助言をしたりして、遺言者にとって最善と思われる遺言書を作成していくことになります。

日本公証人連合会ウェブサイト「公証事務」参照

とはいえ、公証人の先生は日々の公証事務にお忙しい方も多く、どの範囲のご相談まで応じていただけるかは、公証人の先生ごとの裁量に任されているといえるでしょう。あくまで、公証役場での相談は、公正証書遺言を作るための遺言者の意思確認が主な目的であり、基本的には、遺言の内容も確定した上で、相談に出向く必要があるといえます。

一方、専門職(弁護士や行政書士など)が提供する法務サービスでは、遺言者の親族関係・財産状況を確認しながら、遺言者と一緒に、遺言の内容を確定していくものとなります。この点が、公証人による相談との大きな違いです。

【比較6】紛争の防止

紛争の防止の点では、公正証書遺言の方が優れています

比較5でも紹介したとおり、公正証書遺言の場合には、遺言作成時に公証人が、本人確認と意思確認(遺言者が内容を理解した上で意思表示をしているかの確認)を行うのに対し、自筆証書遺言では、単独でも作成できることから、その意思確認の証明は困難です。

遺言者の判断能力(認知症など)について心配があるときには、公正証書遺言での作成をおすすめします。

【比較7】相続手続き

遺言者が死亡した後の相続手続きについては、これまで多くの使用実績がある点からも、公正証書遺言の方が有利といえます。

もちろん、自筆証書遺言(遺言書保管制度)でも銀行等での相続手続きは可能ですが、遺言の内容次第では、銀行が解約に応じてくれないケース(遺言の内容からでは、だれが権利を取得するか明確でない場合など)もあるので注意が必要です。専門職が関与して作成した遺言であれば、そのような問題は通常起こり得ないものではありますが、それでも、相続実務に詳しくない専門職が存在するのも事実です。

そのため、相続手続きの点を重視するのであれば、公正証書遺言で作成するか、または、自筆証書遺言の作成を検討するのであれば、実務経験豊富な専門職に依頼することをおすすめいたします。

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